ボールパイソンは、モルフ(品種)の数がとにかく多いヘビです。選び始める前に知っておきたいことが2つあります。1つは、名前を覚えるより遺伝の「型」を3つ知るほうが、販売ページの表記を読むうえで役に立つこと。もう1つは、一部のモルフには体質の違いが報告されていて、色柄だけで決めると見落とすものがあることです。この記事では体質の話をいちばん厚く扱い、価格の見方と迎える時の確認点までまとめます。飼育全体の流れはボールパイソンの飼い方ガイドを参照してください。

ボールパイソンのモルフは、他の爬虫類と数の桁が違う

レオパ(ヒョウモントカゲモドキ)のモルフも組み合わせを含めると数百種類といわれますが、ボールパイソンはさらに桁が違い、数千種類に及びます。レオパについてはレオパのモルフで整理しています。

歴史は1990年代からで、分岐点は1992年、ボブ・クラークがアルビノの潜性遺伝を証明したことでした。そこから30年あまりで現在の数になりました。これだけ多いと一覧で覚えるのは現実的ではなく、名前より先に遺伝の型を知るほうが近道です。

覚えるのは名前ではなく、遺伝の3つの型

モルフの遺伝形式は、潜性・不完全顕性(通称、共優性)・顕性の3つに分かれます。押さえるのは「買うと見た目と表記がどうなるか」だけで十分です。

見た目に出る条件 販売ページでの現れ方
潜性 2つ持った時だけ見た目に出る 「het(ヘテロ)」=見た目はノーマルで遺伝子を1つ持つ個体
不完全顕性(共優性) 1つ持てば出て、2つ持つとさらに変わる 2つ持った個体は「スーパー体」と呼ばれ、別名が付くことがある
顕性 1つ持てば出て、2つ持っても変わらない 表記はシンプル。ただし体質の話が絡むモルフを含む

潜性で気をつけたいのは「het アルビノ」のような表記です。遺伝子は持っているが色には出ていない個体なので、色柄が目的ならその色にはなりません。不完全顕性は、1つの時と2つの時(スーパー体)で別の名前で呼ばれることがあります。交配の組み方といった繁殖の領域は、この記事では扱いません。

型ごとに見る代表的なモルフ

後半を読むために押さえておきたい最小限の顔ぶれです。

モルフ 見た目
アルビノ 潜性 黒い色素が抜け、黄色と白の体色。1992年に遺伝が証明された出発点
レッサー 不完全顕性 金色を帯びたキャラメルブラウン。黒い点が減る傾向。スーパー体はブルーアイリューシ
シナモン 不完全顕性 体色が濃く出る暗色化のモルフ。ブラックパステルと同じ遺伝子座
ブラックパステル 不完全顕性 暗褐色から黒。スーパー体になると模様が消える
スパイダー 顕性 黒い部分が蜘蛛の巣のように見え、模様が大きく広がる

シナモンとブラックパステルは「どこで見分けるのか」とよく聞かれますが、選ぶ時に効くのは見た目の差より、組み合わせた時に何が起きるかです。遺伝の仕組みと品種を、写真つきで通して読める本もあります。

モルフを決める前に知っておきたい体質の話

ボールパイソンには、色柄によって体質に差が出ると報告されているモルフがあります。専門医の解説と、そこで引用されている研究の書き方をできるだけそのまま渡しますので、判断は読んだうえでしてください。

ウォブル症候群:スパイダーに特異的

ウォブル症候群は、スパイダーに特異的な平衡感覚の障害です。症状としては、頭部の震え、コルク抜きのようなねじれる動き、定位反射(ひっくり返った時に体勢を戻す反射)の阻害、摂食精度の低下、筋緊張の異常が挙げられています。

重要なのは2点です。1つめは、スパイダー遺伝子を持つすべての個体が、程度の差はあれ症状を呈するとされていることです。出る個体と出ない個体がいる、という書き方ではありません。2つめは原因です。2022年のマイクロCT研究で、原因は内耳(前庭器官)の構造的欠陥と報告されました。器官そのものの構造の問題なので、選択交配でこの異常を分離することは不可能と結論づけられています。症状の軽い個体同士を掛け合わせれば出なくなる、という道は否定されています。

同様の平衡感覚障害はシャンパン、ウォマ、スポットノーズでも観察されると書かれています。

飼育では、症状は食事とハンドリングに出やすくなります。摂食精度が落ちれば餌を捕らえ損ねる場面が起きうるので、拒食との切り分けが必要です。餌の考え方はボールパイソンの餌と拒食を、持ち上げた時の反応はボールパイソンのハンドリングを参照してください。出典では、命には直結しないが、重度では拒食に至ることがある、という書き方になっています。

この記事では、スパイダーを「飼うべきでない」とも「問題ない」とも書きません。判断は、上の事実を知ったうえでしてください。

シナモンとブラックパステル:同一遺伝子座の組み合わせ

シナモンとブラックパステルは、同一遺伝子座の対立遺伝子です。1つ持っている分には色柄のモルフとして扱われますが、ホモにする(同じ遺伝子を2つそろえる)、または互いを組み合わせる(8ボールと呼ばれる個体)と、ダックビリングやキンキングが高頻度で発生すると報告されています。

選ぶ時に大事なのは、見た目の見分けより、この遺伝子を1つ持つのか2つ持つのかです。販売ページに「スーパー」や「8ボール」の表記があれば、2つ持った個体です。

レッサーのスーパー体:目の話

レッサー同士の組み合わせで生まれるスーパー体(ブルーアイリューシ)には、目の異常(Bug Eyes)のリスクが言われています。目の状態は迎える前に実物で確認しておきたいところです。

注意

個体ごとの症状の程度は、この記事では判断できません。気になる個体は販売者に症状の有無と程度を確認し、迎えた後に気になる動きが出た時は、爬虫類を診られる動物病院に相談してください。

価格は「モルフ名」では決まらない

「2万円以下で買えるモルフはあるか」という聞き方を見かけますが、モルフ名から予算を逆算する方法はあまり役に立ちません。販売ページに並んでいるのは複数のモルフが組み合わさった個体がほとんどで、同じ名前でも、他に何が組み合わさっているか、het の表記があるか、サイズと性別で金額が変わるからです。相場は流通量で動くので、この記事では金額の表は作りません。予算を決めてから、その範囲で状態の良い個体を選び、金額はそのつど販売ページで確認してください。また、価格は希少さで決まるのであって、体の強さで決まるわけではありません。前の節の体質の話は、価格とは別の軸です。

迎える時に見るのは、色柄を決めた後の個体の状態

どのモルフでも必要な温度・湿度・餌は共通で、飼育の基本は変わりません。温度の考え方はボールパイソンの温度管理にまとめています。色柄を決めた後に確認したいのは次の4点です。

  • 動きと姿勢:頭が小刻みに震えていないか、体をねじるような動きがないか。スパイダー系では特に見ておきたい点です
  • 口先と背骨のライン:口先が変形していないか、背骨が波打っていないか。シナモン系・ブラックパステル系のスーパー体や8ボールでは特に
  • :左右が均等か、飛び出して見えないか。ブルーアイリューシでは特に
  • 何をどれくらい食べているか:販売者に必ず聞いてください。拒食の相談が多いヘビなので、食べている実績は安心材料です

メモ

発色や模様は、脱皮の前後や成長で印象が変わります。脱皮前は全体が白くくすむので、「写真と色が違う」と感じても状態が悪いとは限りません。脱皮の周期と見分け方はボールパイソンの脱皮を参照してください。

まとめ

  1. ボールパイソンのモルフは数千種類。名前を全部覚えるより、潜性・不完全顕性・顕性の3つの型を知るほうが役に立つ
  2. スパイダーはウォブル症候群(全個体が程度の差はあれ症状を呈する。原因は内耳の構造的欠陥で、選択交配で分離できない)。シナモンとブラックパステルは同一遺伝子座で、2つそろえると骨格の異常が高頻度で出る。レッサーのスーパー体は目のリスク
  3. 価格はモルフ名では決まらない。金額は販売ページで確認する
  4. 色柄を決めた後に個体の状態を見る。動きと姿勢、口先と背骨、目、餌の4点

どのモルフでも、迎えた後にやることは変わりません。お迎えを決めたら、まずはボールパイソンの飼い方ガイドで環境の準備から整えていきましょう。